舞台芸術を多文化共生の観点から考えるプロジェクト始動!~担当教員?参加学生インタビュー~
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本学では、毎年秋に開催される学園祭「外語祭」において、2年次の学生が中心となって「語劇」を上演しています。各自が専攻する言語で演劇を披露するもので、毎年、約27言語の演劇が上演されています。
この取り組みは、言葉、歌、音楽、美術、舞踊といったさまざまな要素が絡みあい、一体となってひとつの芸術をつくりあげるので、異文化が触れあい衝突し融合しあう多文化共生のあり方を考えるためのひとつのモデルになっているといえます。

学生に対して語劇の支援をおこなうとともに、語劇の取り組みを広く社会と分かち合うことを目的に、今年4月にTUFS多文化教育研究プロジェクト「多文化共生としての舞台芸術」を始動しました。プロジェクトでは、在学生向けに、役者、舞台音響?照明?大道具、メイク講習などの語劇支援ワークショップをおこなうほか、広く一般公開で、「多文化共生としての舞台芸術」をテーマとした連続セミナーを開催しています。
今回のTUFS Todayでは、この連続セミナーに関して、担当の教員とセミナー参加学生にインタビューしました。
インタビュー?取材担当:言語文化学部ロシア語4年?長崎朱音(ながさきあかね)さん(広報マネジメント?オフィス学生取材班)
舞台芸術を多文化共生という観点から考えてみる
沼野恭子教授インタビュー
——「多文化共生」と「舞台芸術」は一見親和性があまりないようにも思われるので、今回のセミナーはとても新鮮なテーマであるように感じます。そこでまず、今回このようなセミナーを開催することになったきっかけを教えてください。

直接のきっかけは、昨年度でご退任された柴田勝二名誉教授が長く担当していらっしゃった、「舞台芸術に触れる」というリレー講義を引き継ぐことになったというものです。このせっかくの素晴らしい企画を何とか発展的に継承できないかということで、これまでの趣旨に加えて、語劇支援ということも一つの目的としたセミナーを開催することになりました。更に、今までのように授業という形ではなく、一般公開の連続セミナーという形で舞台芸術を多文化共生という観点から考えてみることにしました。これがこの連続セミナーを始めたきっかけです。
私は元々、「多文化共生」と「演劇」は関係が深いものだと思っていたんです。役者として他の誰かを演じるということは、その人に「なりきる」ということです。他の誰かに「なりきる」というのは、その人を理解していなければいけません。だからこそ、演劇というのは他の誰かを理解するための最も有効な方法だと思うのです。
多文化共生と演劇の相性がいい点は他にもあります。舞台をつくるためには、さまざまな人が協働しなければなりません。これはつまり、異なるバックグラウンドを持つ人々が互いに尊重しあい、一つのコミュニティをつくっていくということです。加えて、現代的演出では、演出家を権威とするのではなく、いろいろな立場の人々や観客の解釈まで含めて、すべてが対等で水平な関係を切り結びます。こういったことも、多文化共生のアナロジーだと思います。
この連続セミナーを始めてからは、改めて「多文化共生」と「舞台芸術」がこんなにも関係の深いものだったのか、と感じています。
—— “「多文化共生」と「演劇」の関係性が想像以上に深いものだった”というのは、具体的にセミナーのどのようなところからそう思われたのでしょうか。
特に第1回の平田栄一朗(ひらたえいいちろう)先生のご講演の時ですね。社会の変容とともに演劇のあり方も変わっていくというところ、多様な演劇的要素(役者や照明、美術、観客など)を平等に扱う、という「ポストドラマ演劇」の考え方などは、多文化共生と響きあうものがあると感じました。
——他にも先生ご自身の印象に残っていることや、新たな発見となったものがあれば教えてください。
第2回も第3回も、それぞれ大変面白いものでした。第2回の杉山剛志(すぎやまつよし)さんは、チェーホフの『桜の園』についてお話いただき、作品の冒頭部分を具体的にかつ実証的に読み解いて下さいました。冒頭に3人の登場人物が出てくるのですが、そのうち2人は二次的な登場人物と見られがちです。そのため、普通この2人に注目して読むことはあまりありません。ですが今回のご講演を聞いて、この2人もそれぞれかけがえのない生を生きている人間なのだ、ということに気が付き、当たり前ではありつつも新鮮な驚きを覚えました。
第3回の江原早哉香(えはらさやか)さんのお話からは、演劇の存在形態がこんなにも多様なのかということを実感しました。江原さんの実践されていることは、貧しい人や子供などの弱者目線であり、そういった人々のために劇団の方が出かけていこう、という発想の転換が興味深かったです。
1回ごとに本当に新鮮な驚きばかりで、私自身嬉しい限りです。

——全8回に渡り、多彩な顔ぶれの講演者の方々によってさまざまな視点から多文化共生と舞台芸術について考えるセミナーが行われています。連続セミナー全体の流れや各回のテーマはどのように決められたのでしょうか?
